映画『パーフェクト・デイズ』

先週、予約していたヴィム・ヴェンダース監督の映画を観てきました。

映画館でヴェンダース映画を観たのは、ブラジル人写真家・S.サルガドの

ドキュメンタリー映画以来だったかも?とにかく楽しみにしていました。

 

渋谷のトイレ清掃員が主人公ということで、また何故その着想?と思っていたのだけど、出発点は企業や自治体なども含めた多少コマーシャルなところもあったようで、企画からのプロセスがちょっと異色でありつつも、任された監督ほか制作チームと役所広司さんはじめ俳優陣の力量と懐の深さで、最終的には素晴らしい映画作品になっていました。

 

一見単調に見えるドキュメンタリー感も、毎日車中で役所さん演じる平山が聴く音楽で、一気に心がほころんでいく感じに。これが音楽の醍醐味でもあるし、平山さんの気持ちわかる!という場面でもあった。選曲は全てヴェンダースご本人ではないのかもしれないけれど、日本の曲がチラホラ入っていたことと(しかも!)、流れに違和感が無かったことも素晴らしかったな。

 

基本的に単調でセリフが少ないのに、中盤あるシーンでうわっと急に涙が溢れそうに。一瞬でとてつもなく深い感情を想像させる、伝えることができる役所さんの演技、本当に凄い。事前にキャストも細かくチェックしていなかったから、意外な人が意外なところで現れたりして、楽しかった。そしてラストシーン、最初の2小節ぐらいで「選曲最高!」と思いました。音楽で世界観が締まっている映画、という感じ。

 

私が観てきたヴェンダース映画はいつも、何処か知らない世界へ連れて行ってくれるものが多かったけれど、今回はよく知っている東京の渋谷近辺が舞台ということもあって、日常の中に異世界がパラレルで起こっている、という感覚を貰った気がする。

それから、平山さんのような人はもしかして沢山いるのかも?と。自分のシンボルツリーのようなものを毎日写真に撮る人って結構いると思うし(平山さんの場合は"こもれび"なのだけど)、人知れず美しい仕事をして、美しい毎日を送っている人も、この世界には沢山いるんじゃないかなと。何処にでもあるかもしれない日常の光と影を美しく描いた作品、でした。

 

ここのところ世の中で色々なことが起こりすぎて、常に胸がギュッとしているところもあるので、時々こうして音楽や映画や美術作品に触れたりしながら、緩めたり整えたりしていけたら。先週末は毎年この時期に食べているガレット・デ・ロワを初めて手作り。折込みのパイ生地から捏ねて、まさに無になる時間。パラレルで起こっている世界に思いを馳せつつも、日常を大切に、顔を上げて歩んでいきたいですね。今日明日と、譜面を整理しながら、音楽に戻っていきたいと思います。